若年性血管線維腫(じゃくねんせいけっかんせんいしゅ)とは、思春期の男子に多く見られる鼻の奥にできる良性の腫瘍です。
見た目ではわかりづらく、画像検査で初めて発見されることも。鼻血が止まらない、顔が腫れてきた、そんな症状があれば注意が必要です。
放置すると顔の骨に浸潤し、手術困難や重大な合併症の原因となることがあります。早期発見・早期治療が大切です!

POINT
  • 鼻の奥に発生し、鼻血が頻発するのが特徴
  • 画像診断(CT/MRI)で早期発見が可能
  • 顔の腫れや骨の変形を伴うことがあり、注意が必要

この病気は進行すると骨破壊や頭蓋内進展のリスクもあります。早期発見・早期治療が鍵になります。

若年性血管線維腫の主な症状

若年性血管線維腫の主な症状

患者さんの多くは、「突然の鼻血が頻繁に出る」「鼻が詰まる」「顔の片側が腫れてきた」などの症状を訴えます。
特に鼻血はティッシュで止まらないほど多量になることもあり、日に何度も繰り返すケースも。腫瘍が大きくなると眼球が前に出たり、頬部の腫脹や顔面のゆがみとして現れることもあります。
骨破壊による視力障害や、嚥下障害顔のしびれを伴う例も報告されています。

若年性血管線維腫の原因・若年性血管線維腫になり易い方

若年性血管線維腫は主に10~20歳の思春期男子に好発し、ホルモン(特にアンドロゲン)の影響が強く関与していると考えられています。
病因としては、胎生期の遺残組織や血管構造の破綻、そして血管内皮成長因子(VEGF)やインスリン様成長因子II(IGF-II)などの関与も示唆されています。
さらに家族性大腸腺腫症との関連性も報告されており、遺伝的素因が関与する可能性もあります。

若年性血管線維腫の検査/診断方法

若年性血管線維腫の検査/診断方法

診断にはまず耳鼻咽喉科での視診と問診が行われますが、画像診断(CT・MRI)が非常に有用です。
特にCTでは骨の変形や破壊、腫瘍の大きさ(ひろがり)を確認し、MRIでは腫瘍内の血流を示すflow void(無信号域)や周囲組織への進展状況を把握できます。
造影剤を用いることで、造影CTでは強く染まる腫瘍として描出され、造影MRIでは腫瘍の浸潤範囲や周囲構造との関係性を明確に把握できます。また、手術前に血流を評価するため、血管造影検査が行われることもあります。
生検(組織を取って調べる検査)は大量出血の危険があるため原則禁忌とされ、画像所見と臨床経過から総合的に診断されます。
進行の程度はRadkowski分類で評価され、腫瘍がどこまで広がっているかにより治療方針が変わります。

若年性血管線維腫の治療方法・回復期間の目安

治療の第一選択は手術で、腫瘍の全摘出が基本です。
方法としては内視鏡下手術が主流で、低侵襲で美容面にも優れています。出血のリスクを減らすため、手術前に選択的血管塞栓術(TAE)を行うことが推奨されており、術中出血量を大幅に減少させる効果があります。進行例では開頭術や顔面正中展開術(midfacial degloving)などの複合的アプローチが必要となります。

まれに、腫瘍が頭蓋内に進展している場合には、放射線治療を組み合わせることもあります。
術後は1週間程度の入院が必要で、日常生活への復帰は術後2週間〜1ヶ月が目安です。再発リスクもあるため、術後の定期フォローが重要です。

若年性血管線維腫の類似症状の疾患

若年性血管線維腫の類似症状の疾患

鼻血や鼻閉などの症状は、慢性副鼻腔炎、鼻ポリープ、出血性鼻茸、血管腫、鼻副鼻腔がん、上咽頭がん、横紋筋肉腫などと類似します。
画像検査による特徴の見極めが診断の鍵になります。

また、若年性血管線維腫は、思春期の男子に特有の症状があるため、年齢や性別も診断のポイントになります。

若年性血管線維腫にならないための予防・日頃のケア

疾患自体の予防は困難ですが、以下の点で早期発見が期待できます。

  • 鼻血が続く、鼻が詰まりやすいなどの症状があれば耳鼻科を早期受診
  • 日頃のケアとして、冬場は加湿器などで鼻腔内の乾燥を防止
  • 鼻を強くかまないように注意し、粘膜を傷つけない

さいごに

若年性血管線維腫は若年男性に特有の良性腫瘍で、早期に見つけて適切に治療すれば十分に良くなる病気である一方、進行すると命に関わる可能性もある疾患です。
最近では内視鏡手術の進歩により、低侵襲での治療が可能となっています。
私たちは安全で確実な治療の提供を目指し、術前の検査から術後のフォローまで丁寧に対応しております。鼻血が続くなどの不安があれば、お気軽にご相談ください。

上野 貴雄

この記事の監修

上野 貴雄(うえの たかよし)

  • 金沢大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 助教
  • 日本鼻科学会認定 手術指導医
  • 耳鼻科専門医 医学博士