食事や水で「むせる」、長引く「咳」。年齢のせいと放置すると誤嚥性肺炎の原因に。
どの病気が隠れるか、何科へ行くか、検査・治療や漢方まで要点をまとめます。

POINT
  • 食事中のむせる・水で咳は要注意
  • 姿勢調整でむせ予防、検査は外来可
  • 体質に合わせ漢方も併用可

症状の「原因」を見極めると、治療はぐっと楽になります。
まずは何科?→耳鼻咽喉科で内視鏡を含む評価を受け、再発しにくい生活と治療計画へつなげましょう。

嚥下障害(誤嚥)の主な症状

嚥下障害(誤嚥)の原因・なり易い方

嚥下障害(誤嚥)の原因・なり易い方

主因は嚥下機能の低下(加齢、脳卒中やパーキンソン病など)。
鼻炎・副鼻腔炎による後鼻漏、声帯麻痺・喉頭疾患、逆流性食道炎などの病気も原因になります。
高齢者、口腔乾燥、服薬の副作用、フレイル、早食い・ながら食事、就寝直前の飲食はリスク。
乾燥期や花粉の季節は悪化しやすく、痰や咳が増えむせやすくなります。
まず受診すべき何科か迷う場合は、のどの専門・耳鼻咽喉科が入口です(外来での評価とトリアージが推奨)。

嚥下障害(誤嚥)の検査/診断方法

  • 嚥下内視鏡検査(FEES/VE):鼻から細い内視鏡で咽頭・喉頭を観察し、着色水やゼリーで嚥下を評価。外来で実施でき、その場で所見共有が可能。軽度の喉頭流入の有無や代償手技の効果確認に有用です。
  • 嚥下造影検査(VFSS):必要時に専門外来へ紹介し、口腔〜食道の動態をX線透視で解析。食道入口部の開大不全など、FEESだけでは分かりにくい点を評価します。
  • リスクの見極め:喉頭流入後にしっかりむせる(喀出できる)方は外来フォロー可。一方、むせられない“サイレント”誤嚥が疑われる場合や神経学的所見があれば、総合病院の嚥下専門外来や神経内科へ。

嚥下障害(誤嚥)の治療方法

リハビリテーション(言語聴覚士中心)

  • 顎を引く「顎引き嚥下」:気道防御・喉頭閉鎖・食道入口部開大を高め、軽度の喉頭流入にまず試す頭位。
  • 頸部回旋:片側声帯麻痺などで誤嚥を減らすのに有効。咽頭クリアランス向上が期待。
  • メンデルゾーン手技/舌圧トレーニング:嚥下動態を改善するための定型訓練として用います。
  • Shaker訓練:頭部挙上の等尺性・等張性運動を6週間。機器不要で一般外来に適します。

薬物治療

  • 後鼻漏・副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎を治療し、刺激性のや痰を抑える。逆流が強い場合は胃酸抑制薬。

漢方(医師の体質評価の上で)

  • 乾いた・のど乾燥に麦門冬湯、冷え・水様性鼻汁に小青竜湯、のどのつかえ感に半夏厚朴湯など。

嚥下障害(誤嚥)の回復期間の目安

嚥下障害(誤嚥)の回復期間の目安
  • 後鼻漏が主因:2〜4週でむせる・咳が軽快しやすい。
  • 姿勢・訓練中心:4〜8週で日常のむせ半減を目標。
  • 声帯麻痺など器質的要因:処置後1〜3か月で機能改善を期待(個人差あり)。
    ※訓練導入時はリスク説明と同意が重要です。

類似症状の疾患

逆流性食道炎、咳喘息・気管支喘息、COPD、薬剤性の咳(ACE阻害薬など)、気道異物、気管支拡張症、マイコプラズマ・百日咳、喉頭アレルギー、心不全など。長引く咳(8週以上)、血痰、体重減少、発熱を伴う場合は至急受診。

嚥下障害(誤嚥)にならないための予防・日頃のケア

  • 食事は顎を軽く引く・一口量を小さく・よく噛む(外来で効果確認が可能)
  • 水・お茶は一気飲みを避け、姿勢調整(顎引き/頸部回旋)を状況に応じて併用
  • 就寝3時間前までに食事を終え、逆流対策(枕を高く)
  • 毎食後の歯磨き・口腔ケアで誤嚥性肺炎を予防
  • 声出しや軽い体操で口・舌・のど周りを温めてから食事

さいごに

「むせる」「咳が続く」は、見逃したくないサインです。
耳鼻咽喉科では、外来で可能な嚥下内視鏡検査に基づき、姿勢指導からリハビリ、薬物療法、必要時の専門紹介まで一貫して対応します。何科か迷ったら、まずはのどの専門へ。
患者さんの生活に合わせ、無理のない計画で安全に“口から食べる”力を取り戻すお手伝いをします。

野田 昌生

この記事の監修

野田 昌生(のだ まさお)

  • 自治医科大学 耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科 講師
  • 耳鼻科専門医 医学博士