嗅覚障害とは、嗅覚に異常が生じた状態を指します。
嗅覚は、香りや臭いを感じ取ることができる神経の感覚であり、人間の五感の一つです。嗅覚障害がおきると、生活において匂いに対する感覚や味の感じ方が変化するため、食事におうことが必要な状況で生活に支障をきたすことがあります。

原因について

嗅覚障害の原因は、様々なものがあります。最も一般的な原因は、風邪やインフルエンザなどの上気道感染症です。
また、アレルギー性鼻炎や鼻ポリープ、副鼻腔炎、鼻副鼻腔腫瘍、脳腫瘍、頭部外傷、脳卒中、化学物質による中毒、薬物の副作用なども原因として考えられます。

病態について

診療ガイドラインでは嗅覚障害を、量的嗅覚障害質的嗅覚障害の2つに大別しています。
量的嗅覚障害は、においの感覚が減弱した状態である嗅覚低下(hyposmia)と, 全くにおいを感じない状態である嗅覚脱失 (anosmia)に分類されます。
一方、質的嗅覚障害は、においを感じる様態に変化が生じた状態で、代表的なものに異嗅症(dysosmia)があります。

刺激性異臭症というものもあって、あるにおいを嗅いだときに、「本来のにおいと、異なるにおいを感じる」状態のことを言います。また、自発性異嗅症は、周囲に「におい」がないにも関わらず、本人のみが自覚的に「におい」を感じる状態です。

必要な検査とその所見について

嗅覚障害の診断には、まず、医師による問診や臨床所見が重要となります。また、以下の検査が行われることもあります。

基準嗅覚検査

様々な香りを薄い濃度から嗅がせ、正しく認識できるかどうかを調べます。

鼻内視鏡検査

鼻腔や鼻粘膜の異常を、内視鏡を使って確認します。

画像検査

脳や嗅覚神経に異常がある場合には、MRIなどの画像検査が行われることがあります。

治療方法について

嗅覚障害の治療方法は、原因によって異なります。
感冒や鼻炎などの疾患による嗅覚障害では、原因となる疾患を治療することで改善することがあります。
一方、脳腫瘍や脳卒中による嗅覚障害に対しては、その疾患に対する手術や放射線治療などが行われることがあります。
いずれの場合においても、嗅覚リハビリや、漢方薬、ビタミン剤などが使用されることもあります。

治療を考える際の注意点

原因によって治療方法が異なるため、正しい診断をして、治療にむかうことが必要となります。また、治療によって嗅覚障害が改善されるとは限りません。
特に、脳腫瘍や脳卒中による嗅覚障害の場合には、完全に治療することができないこともあります。

嗅覚は食事の味や香りの認識、火災やガス漏れといった危険の警告、感染症の発見など、人々の生活に不可欠な感覚です。嗅覚障害があると、これらの活動に制限が生じ、社会的・心理的影響が出る可能性があります。
例えば、嗅覚障害が原因で食欲不振や食事量の減少、栄養不良、社交的孤立、うつ病などが起こることが報告されています。
そのため、家族や周囲の人々がサポートを行い、嗅覚障害のある人々が普通の生活を送るために必要なアドバイスやケアを提供することが重要です。また、医師や専門家からの支援を受けることも重要です。

POINT
  • 嗅覚障害とは、嗅覚に異常が生じた状態を指す
  • 原因は様々で、臭いが分かりづらいものや、異なる臭いを感じるなどの症状を起こす
  • 嗅覚は食事や火災、ガス漏れといった危険の警告など、生活に不可欠な感覚であり、社会的・心理的な負担が無いように、周囲も助けてあげることが重要
上野 貴雄

この記事の監修

上野 貴雄

  • 金沢大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 助教
  • 耳鼻科専門医 医学博士