鼓膜形成術は、文字通り鼓膜を作り直す手術です。鼓膜を作り直すことで

  • 音が伝わる仕組みを作り、聞こえをよくする
  • 感染の原因を無くし、中耳炎を防ぐ

という二つの大きな目的があります。主な適応としては、

  • 鼓膜に穴があいてしまう鼓膜穿孔
  • 穴が空いていることによって中耳炎を起こす慢性穿孔性中耳炎

があります。
鼓膜に空いている穴の大きさや部位、聴力などから、鼓膜形成術を行うか鼓室形成術を行うかを決めていきます。ここでは、鼓膜形成術(接着法)についてご説明します。

手術の方法

この手術は小児の場合全身麻酔で行い、手術時間の目安は1時間程度です。程度や他の合併症などによって、時間は前後します。
一般的な手術の流れとしては、以下の通りです。

  1. 耳介の後方(前方や上方のこともあります)を切開し、結合織を採取します。これは、鼓膜の再建材料になります。
  2. 耳の中から鼓膜を確認し、穿孔の縁部分を取り除きます。
  3. 穿孔の部分に、採取した組織をあてます。その後、再建組織を生体のりで固定します。
    ※1 手術方式によって、耳の中から内視鏡を使って手術をする場合があります。
    ※2 最近では、鼓膜再生療法(リティンパ)というゼラチンスポンジや細胞の増殖因子を使う手術もあります。

主な合併症

この手術に関する主な合併症としては以下のものがあります。

1)術後感染

抗菌薬などの薬の治療にもかかわらず、手術後に耳の感染・炎症が持続することがあります。感染がひどいと鼓膜に再度穿孔が生じたり、治癒が遅れたり、術後の聴力が悪くなったりする可能性があります。
手術後しばらくは創部を汚したり、強く鼻をかんだり、外耳道に汚れた水を入れたりしないよう注意してください。また、鼻をすすることも鼓膜の凹みの原因になるので控えましょう。

2)術後聴力

手術後もしばらくの間、聴こえが手術前と比べて悪くなることがあります。鼓膜や中耳腔の治癒が進み、聴力の安定が得られるのに個人差があります。
聴力改善のための手術をうけても、全例で聴力が上昇するとは限りません。時には手術後の治癒過程の障害や炎症の持続などにより、術後に聴力改善の得られないこともあります。

3)出血、痛み

手術後に、傷から少量の出血がみられる事があり、まれに創部に血液が溜まることがあります。貯留した血液は自然と消失していくことが多いのですが、創を開いて除去が必要なこともあります。
手術後の痛みは強くないことがほとんどですが、痛むときは鎮痛剤などを用います。

4)皮膚感覚

手術後当分の間、耳の周囲の皮膚の感覚が一時的に麻痺することが多いようです。

5)鼓膜穿孔

術後早期、あるいは時間がたってから鼓膜に穿孔を生じることがあります。中耳腔に圧がかかることや、中耳炎に罹患することなどで起こります。
小児は、成人とは異なる部分も多く、その特性について考慮しながら検査や治療方針の検討、必要なタイミングで手術にのぞむことが必要となります。
例えば、

  • こどもでは一般に急性中耳炎に罹患しやすく、耳管の機能も不良であること
  • 難聴による生活への影響が大きいこと
  • 術後期間が成人より長いため、再発や機能改善の度合いによる影響が大きいこと

などが挙げられ、これらを踏まえて、手術の適応や術後の対応を行う必要があります。
この手術を承諾されるかどうかは、患者さんの意思が尊重されます。承諾されない場合でも、診療上の不利益をうけることはありません。

手術・治療法に関して、ご不明な点がありましたら、耳鼻科専門医にご相談してください。

野田 昌生

この記事の監修

野田 昌生

  • 自治医科大学 耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科 講師
  • 耳鼻科専門医 医学博士