人工内耳埋め込み術は、人工内耳という内耳を直接電気刺激する機械を埋め込むことで、音を入力する仕組みを作り、聞こえの悪い方でも聴力の改善を図る手術です。

適応基準

補聴器でも効果がないような聞こえの方を対象としており、小児と大人では適応基準が異なっています。これは、小児では言葉の獲得を考える必要があることや、うまく聞こえの検査ができない場合、手術に耐えうる体格などを考慮してのことです。

2022年日本耳科学会の小児人工内耳適応基準では、手術前から術後の療育まで一貫した協力体制がとれていることを前提とした上で、適応基準を挙げています。

適応基準に関しては、手術手技やデバイスの進歩、これまでのデータを元にして、改訂されることがあります。ご不明な点がありましたら、お気軽に専門医にご相談ください。

手術の方法

手術は全身麻酔で行い、手術時間の目安は約2-3時間ですが個人ごとに大きく異なります。手術は以下のような流れで行います。
手術では、①~④にかけて、人工内耳の電極をいれるルートを作成してから、実際に電極を入れるような流れです。

  1. 耳の後方から側頭部にかけて皮膚を切開します(当院では、手術室入室後に耳周囲の髪の毛を剃ります)
  2. 側頭骨を一部削り、人工内耳本体を埋め込むスペースを確保します
  3. 側頭骨をさらに削り、鼓室までの電極を通す経路を作ります
  4. 鼓室内の構造を確認した後、内耳(蝸牛)に孔を開けます
  5. 電極を蝸牛内に挿入します
  6. ご本人の骨や皮下結合組織を採取して、電極を固定します
  7. 術後、全身麻酔下に人エ内耳の動作テストを行います

術後について

当院では、手術後2週間前後で「音入れ」(初めて人工内耳を介した音を入れる)を始め、1~2カ月位は、週に1回程度電極の調整、マッピングを含めたリハビリテーションがあります。言語獲得後の中途失聴者が多くを占める成人と、言語習得前失聴者が主体の小児とでリハビリテーションの頻度や内容が異なります。一般的には小児例の方が頻回のリハビリテーションを必要とする場合が多いです。

人工内耳装用状態が安定すれば徐々にリハビリテーションの間隔を伸ばしていきますが、その場合でも、半年か1年に1回位の定期的なチェックが必要です。

合併症

本手術に関連した主な合併症として以下のものが挙げられます。

1)術後感染

術後に創部の感染や髄膜炎の予防のため抗菌薬を投与しますが、まれに感染が出現・持続することがあります。100人に1人程度の確率で埋め込んだ人工内耳が原因で中耳や内耳に感染を生じることがあるといわれています。感染がひどいと再手術にて創部を清掃したり、場合によっては電極を取り除く必要があります。

手術後しばらくは創部を汚したり、鼻を強くかんだりしないよう注意してください。

2)めまい

手術後に、めまいや吐き気が起こることがあります。術後数日間続くこともありますが、通常は一時的で治ることがほとんどです。その後の軽いふらつき感や、頭を急に動かした時のめまい感も時間がたつにつれて改善していきます。

3)味覚障害、術側の舌のしびれ(約5%)

手術後に、手術を受けた側の舌半分がしびれた感じがして、食べ物の味がわかりにくくなることがあります。
鼓索神経(こさくしんけい)という味覚の神経が手術部位の近くを走行しているために起こります。

4)顔面神経麻痺(1%以下)

顔面神経は耳の中を走行しています。手術中に顔面神経が損傷されると手術を受けた側の顔面の筋肉の動きが悪くなります。顔面神経の障害が強い場合には、皮膚の知覚神経の一部を移植して顔面神経を再建することになります。

5)出血、痛み

手術後に、傷から少量の出血がみられる事があり、まれに創部に血液が溜まることがあります。溜まった血液は自然と消失していくことが多いのですが、創を開いて除去が必要なことがあります。

手術後の痛みの程度には個人差があります。痛みが強いときは鎮痛剤で抑えますので、医師、看護師にお申し出ください。

6)皮膚感覚

手術後、耳の周囲の皮膚の感覚が一時的に麻痺します。麻痺は徐々に改善します。

7)脳脊髄液漏

手術中および手術後に脳脊髄液が漏れ出ることがあります。その場合、頭部挙上でベッド上安静の延長や、背中から脊髄腔に細い管を入れてしばらくベッド上で安静にする必要があります。また再手術により瘻孔を塞がなければならない場合があります。 

8)髄膜炎

人工内耳の術後合併症として、髄膜炎の報告があります。髄膜炎の発症率は1000人に1人くらいとされています。術後に必要十分な、感染予防の抗菌薬治療をおこなうことで予防しています。

稀に内耳より中枢が原因の難聴が存在します。この場合は人工内耳埋め込み術を行っても、聞き取りの改善が得られないことがあります。

代替治療について

人工内耳の適応となる方では、補聴器装用はその効果は限定的と考えられ、音への反応や言語発達が十分でないことが予想されます。
手術を承諾されるかどうかは、患者さんの意思が尊重されます。承諾されない場合でも、診療上の不利益をうけることはありません。

この手術・治療法に関して専門医にお気軽にご相談してください。

野田 昌生

この記事の監修

野田 昌生

  • 自治医科大学 耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科 講師
  • 耳鼻科専門医 医学博士