突然、顔の片側が動かなくなったら驚きますよね。このような症状を起こす「Bell(ベル)麻痺」という病気があります。顔の神経(顔面神経)に炎症が起きて、一時的に動きが悪くなるものです。

Bell麻痺は、突然顔の片側が動かなくなることで気づかれる疾患で、日本では年間約4〜6万人が発症します(ガイドライン2023版)。一方、Hunt症候群は帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化によるもので、皮疹や耳痛を伴うのが特徴。両者は症状が似るため鑑別が非常に重要です。

今回はその違いと治療のポイントを丁寧に解説します。

Bell麻痺とHunt症候群の違い(かんたん比較)

ポイントBell麻痺Hunt症候群(zoster sine herpete)
原因ウイルスHSV-1VZV(帯状疱疹ウイルス)
皮膚症状なし発疹(皮膚や耳のまわり)
耳の痛みほとんどないあり
治療ステロイド±抗ウイルス薬抗ウイルス薬+ステロイド
POINT
  • Hunt症候群との鑑別が重要
  • ウイルス(HSV-1)の再活性化が主因
  • 早期の治療(ステロイドと抗ウイルス薬の早期併用)が有効
  • 自宅でできるケアも大切

Bell麻痺は早期に適切な診断と治療を受けることで、回復率を高めることができます。特にHunt症候群との見分けが重要です。

Bell麻痺の主な症状

Bell麻痺の主な症状

Bell麻痺の典型的な症状は、顔の片側全体に現れる麻痺です。
具体的には、「目が閉じられない」「口角が下がる」「額のしわが寄らない」「涙や唾液が出にくい」「味覚異常」などです。

麻痺側の音に敏感になる聴覚過敏や、眼が上方を向くBell現象も見られます。発症は急激で、多くは起床時に気づくことが多く、72時間以内にピークを迎える傾向があります。

Bell麻痺の原因・Bell麻痺になり易い方

主な原因は、単純ヘルペスウイルス(HSV-1)の再活性化による顔面神経の炎症とされています。ストレス、免疫力の低下、寒冷刺激などが誘因と考えられており、妊婦、糖尿病患者、高齢者はリスクが高く、冬から春にかけての発症が多くみられます。

検査/診断の方法

検査/診断の方法

Bell麻痺の診断は問診と視診が基本で、いつから、どんな症状がでたか、どれくらい動きが悪いかを確認します。柳原法スコアやHouse-BrackmannスケーBルという方法で重症度評価を行います。Hunt症候群では水疱や耳痛の有無を確認し、鑑別が可能ですが、皮疹を伴わないHunt症候群(zoster sine herpete)とはわかりづらい場合があります。

顔面神経麻痺の範囲と程度を評価するため、耳小骨筋反射やblink reflexなどの生理学的検査が行われます。脳の中など他の原因が無いことを確認するためにMRIを施行します。内耳道遠位部などに造影効果を確認できることがあります。

治療の方法・回復期間の目安

Bell麻痺の治療では、発症72時間以内のプレドニゾロン投与(1mg/kg/日または60mg/日を5~7日間、以降漸減)が推奨されます。中等症以上では抗ウイルス薬(アシクロビル1,000~2,000mg/日またはバラシクロビル1,000mg/日)との併用が望ましいとされています。ステロイド投与については耳の中から薬を投与する鼓室内投与という方法も行われています。しかしながら、投与するステロイドの量については報告によって様々で、これからの研究でさらに明らかにされていくと予想されます。

改善は通常2~4週間以内に見られ、完全回復には3ヶ月から半年以上を要することもあります。重症例や後遺症が予測される場合は神経の圧を開放する手術や、ボツリヌス毒素療法やリハビリも併用します。
麻痺が改善するかどうか予後を評価するためには、重症例ではElectroneurography (ENoG)とよばれる検査を行い、神経の変性がどれくらい進んでいるかを発症から1週間程度経った際に行います。

また、リハビリテーションは非常に重要です。麻痺になってすぐ(急性期)と3ヶ月ほど経過した時期(回復期)、1年ほど経過した時期(生活期)では状態も異なるため、後遺症を減らすためには継続することが大切になります。

Bell麻痺の類似症状

Bell麻痺の類似症状

Hunt症候群(帯状疱疹を伴う)、脳梗塞、中枢性顔面神経麻痺、Guillain-Barré症候群などが鑑別に挙がります。中枢性麻痺では額のしわは保たれるのが特徴です。

予防・日頃のケア

ウイルスの再活性化を防ぐには、ストレスを溜めず、十分な休息とバランスの良い食生活が大切です。うがい・手洗いを習慣化し、寒冷時には顔を冷やさないよう注意しましょう。
違和感を覚えたら早めに受診することが重要です。

さいごに

Bell麻痺は早期の診断と治療で良好な経過をたどる疾患です。ステロイド療法や抗ウイルス薬の併用、適切なリハビリにより後遺症を防ぐことができます。

焦らず、十分な睡眠をとることやリラックスを心がけるなど基本的なことが確実な改善につながりますので、無理をしないでくださいね!

野田 昌生

この記事の監修

野田 昌生(のだ まさお)

  • 自治医科大学 耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科 講師
  • 耳鼻科専門医 医学博士