「急にめまいがして立っていられない」「ふらついてまっすぐ歩けない」――そんな症状が出たら前庭神経炎の可能性があります。耳の病気?脳の異常?と不安に感じる方も多いでしょう。
本記事では、前庭神経炎の原因から治療、リハビリ、後遺症に至るまで、最新のガイドラインや文献をもとに詳しく解説します。
- 後遺症としてふらつきが残る場合もある
- 回復にはどれくらいで治るか個人差あり
- 適切なリハビリが回復の鍵
- 感染後やストレスがきっかけで発症することが多い
前庭神経炎は突然発症しますが、正しい診断と治療で症状の改善が期待できます。回復までの経過や注意点を詳しく解説します。
前庭神経炎の主な症状

前庭神経炎の主な症状は、突然の激しい回転性めまいとふらつきです。ぐるぐると景色が回るような感覚に襲われ、立っていることが困難になったり、歩行がままならなくなったりするケースがほとんどです。このめまいは通常1日から3日ほど持続し、日常生活に大きな支障をきたします。
めまいに加えて、吐き気や嘔吐を伴うことが多く、患者にとって非常につらい状態が続きます。ただし、難聴や耳鳴りといった聴覚の症状は見られないことが特徴で、これが他の内耳疾患との鑑別において重要なポイントとなります。
急性期を過ぎても、頭部を動かした際や暗所でのふらつき感(浮動感)が長期間持続することがあります。また、患者の約11〜27%では回転性ではなく、体がふわふわと揺れているような「浮動性のめまい」を訴えることも報告されています。さらに、頭の動きや歩行時にバランスを崩しやすくなり、転倒のリスクも高まるため注意が必要です。
前庭神経炎の原因・前庭神経炎になり易い方

前庭神経炎の明確な原因は分かっていませんが、ウイルス感染が大きく関係していると考えられています。特に上気道感染(風邪)などの後に発症する例が多く、ウイルスの再活性化(例えば単純ヘルペスウイルス1型)も原因の一つとされています。
また、前庭神経のうち、上前庭神経が最も多く障害されると報告されていますが、下前庭神経や両者が障害されることもあります。これらは、近年の前庭機能検査の進歩により明らかになってきた知見です。
年齢層は30〜60歳代に多く、発症年齢のピークは50歳前後とされています。性差はあまり見られませんが、免疫力の低下、ストレス、睡眠不足がリスク要因とされており、これらの状態がウイルス再活性化の引き金になると考えられています。
検査/診断の方法
前庭神経炎の診断には、耳鼻咽喉科での専門的な検査が必要です。代表的な検査には以下があります。
- 温度刺激検査(カロリックテスト):外側半規管と上前庭神経の機能を評価します。CP(半規管麻痺)を確認します。
- 眼振検査(自発・頭位眼振):特徴的な所見を確認します。(とくに発作時の方向固定性の水平性もしくは水平回旋性眼振)
- vHIT(video Head Impulse Test):半規管の反応を計測し、障害部位の詳細な判別に有効です。
- VEMP(前庭誘発筋電位):下前庭神経の機能評価に使用されます。
これらの検査により、障害部位(上前庭神経・下前庭神経)を分類できるようになっています。
通常、これらは外来で当日中に行うことができます。MRIにて脳梗塞などの中枢性疾患の除外も重要です。
前庭神経炎の治療方法・回復期間の目安

前庭神経炎の治療は、病初期の急性期管理と、その後のリハビリを中心とした回復期の対処に分けられます。
急性期には、激しいめまいとそれに伴う吐き気や不安感を抑えるための薬物療法が行われ、抗めまい薬(メクリジン、ジフェンヒドラミンなど)や制吐薬(メトクロプラミド、ドンペリドンなど)、必要に応じて抗不安薬(ジアゼパムなど)が処方されます。
また、発症早期にステロイド(メチルプレドニゾロン)を投与することで、前庭機能の回復を促す可能性があるとの報告もありますが、現時点ではその有効性については議論が続いています。抗ウイルス薬については、単純ヘルペスウイルスの関与が疑われてはいるものの、臨床的に有効であるという十分な証拠は得られていません。
症状は、激しい回転性めまいが1週間以内に軽快することが多く、その後に残るふらつき感も通常は2~4週間程度で徐々に改善します。しかしながら、検査上では、患者の約60%に前庭機能障害(CP)の残存が見られ、3ヶ月以上にわたってふらつきが続くケースもあるとされています。
このような慢性化したふらつきやバランス障害に対しては、前庭リハビリテーション(Vestibular Rehabilitation Therapy:VRT)が非常に有効とされます。VRTは、平衡感覚を司る他の感覚系(視覚や深部感覚など)を活用して代償を促す訓練であり、医療機関における専門的なプログラムから、自宅でできる簡単な運動までさまざまな方法があります。
前庭神経炎の類似症状
前庭神経炎と症状が似ているが治療が異なる疾患には注意が必要です。突発性難聴、メニエール病、脳梗塞、良性発作性頭位めまい症(BPPV)などが類似の症状を示しますが、聴覚症状の有無や眼振のパターンにより鑑別されます。
疾患名 | 主な特徴 |
メニエール病 | 難聴・耳鳴りを伴う |
BPPV(良性発作性頭位めまい症) | 頭の位置で誘発、短時間のめまい |
突発性難聴 | 突然の聴力低下 |
脳梗塞(Wallenberg症候群など) | 顔のしびれ、複視、嚥下障害を伴うことも |
前庭神経炎にならないための予防・日頃のケア

- 感冒予防(手洗い・うがいの徹底)
- ストレス管理と十分な睡眠
- 感染後の無理な運動や仕事を避ける
- めまいを感じたら早期受診
- 前庭リハビリの早期導入で回復を促進
前庭神経炎の発症や再発のリスクを減らすには、やはり生活習慣の見直しと体調管理が重要と考えます。
さいごに
前庭神経炎は適切な治療とリハビリにより、多くの患者さんが日常生活へ復帰できます。ふらつきや後遺症に不安を感じる方も、段階的な回復を目指すことで希望が持てます。
めまいでお悩みの方は、早めに耳鼻咽喉科専門医の診察を受けることをおすすめします。