「喉に何かが詰まっている感じ」「唾を飲み込むと違和感がある」──これらの症状を訴える人が少なくありません。検査をしても明らかな異常が見つからない場合、咽喉頭異常感症(Globus Sensation)が疑われます。
かつては「ヒステリー球(globus hystericus)」と呼ばれ、心因性の症状として扱われていましたが、近年では逆流性食道炎(GERD)や咽喉頭逆流症(LPR)など、消化器疾患やアレルギー、心理的要因が複雑に関与する「多因子的な疾患」であることが明らかになっています。
この記事では、咽喉頭異常感症の原因、治し方、そして一部で話題になるツボ療法の考え方と注意点まで、総合的に解説します。
- 喉の「ヒステリー球」は咽喉頭異常感症の代表的な症状
- 原因は逆流性食道炎、ストレス、アレルギーなど多様
- 治し方は薬物・生活改善・心理的アプローチの組み合わせ
- ツボ押しは補助的手段、効果のエビデンスは限定的
- 長引く場合は早めに専門医の診察を
咽喉頭異常感症の主な症状

咽喉頭異常感症の代表的な症状は、「喉に何かが詰まっている感じ(球感)」です。これは唾液を飲み込むときに特に強く感じられ、飲食時よりも空嚥下(唾だけを飲む動作)で目立つのが特徴です。
また、喉のイガイガ感、乾いた咳、声のかすれなどがみられることもあります。逆流性食道炎を合併している場合は、胸やけやゲップといった胃の症状を伴うことも少なくありません。これらの症状は、食後や就寝前、あるいは緊張時など、生活のリズムや精神状態によって強まる傾向があります。
咽喉頭異常感症の原因・咽喉頭異常感症になり易い方
咽喉頭異常感症は以下のような原因が複雑に絡み合って起こるとされています。
- 胃食道逆流症(GERD)・咽喉頭逆流症(LPR)
胃酸が食道や喉に逆流し、粘膜を刺激します。 - 心理的ストレス・不安
「ヒステリー球」と呼ばれていた背景。緊張で症状が悪化することも。 - 喉頭アレルギー・後鼻漏
粘膜の炎症やアレルゲンの関与。 - 鉄欠乏性貧血・甲状腺疾患
粘膜感覚の過敏化や頸部の圧迫感につながる可能性があります。 - 悪性疾患の初期症状
下咽頭がんなどが原因のこともあるため、初診時には十分な精査が必須です。
逆流性食道炎との合併が見られる症例も多く、喉の不快感とともに胸やけ、ゲップがある場合には特に注意が必要です。
咽喉頭異常感症の検査/診断の方法

診断は除外診断を基本としており、他の疾患がないかどうか、詳細な問診と視診、咽喉ファイバー(内視鏡)による観察によって確認します。加えて以下の検査が必要に応じて行われます。
- 上部消化管内視鏡検査:逆流性食道炎や腫瘍の除外に有効。
- pHモニタリング検査:胃酸逆流の有無を確認。
- 血液検査:貧血、甲状腺疾患の有無を確認。
- 心理テスト(HADS、STAIなど):心因性要因の関与が疑われる場合。
症状を定量化するための問診票GETS-J(Glasgow Edinburgh Throat Scale-日本語版)も有効です。
咽喉頭異常感症の治療方法・回復期間の目安
治療は原因に応じて多面的に行われます。逆流性食道炎の関与する可能性がある場合には、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などを用いた胃酸抑制治療が基本です(奏効率47.8%程度と報告あり)。食事・姿勢など生活習慣の指導も重要です。
その他、喉頭アレルギーや後鼻漏が原因の場合は抗アレルギー薬、ステロイド吸入、漢方薬なども選択されます。鼻炎・副鼻腔炎との併存にも注意します。
心理的要因が関与する場合には抗不安薬(マイナートランキライザーなど)や精神科的サポートが必要となることもあります。回復期間の目安は1~3ヶ月程度ですが、心理的負担が大きい場合は6ヶ月以上かかることもあります。
ツボ療法について ― 有効?注意すべき?
近年、咽喉頭異常感症の「セルフケア」としてツボ押しが話題になることもあります。たとえば
- 合谷(ごうこく):全身の調整やストレス緩和に良いとされる
- 天突(てんとつ):喉や胸部の不快感に使われることがある
しかし注意点があります。
現在、咽喉頭異常感症に対するツボ療法の医学的エビデンスは不十分です。リラックス効果や不安軽減の補助として行う分には問題ありませんが、「ツボ押しで治る」といった過度な期待や自己判断による放置は危険です。まずは専門的な診察を受けることが重要です。
咽喉頭異常感症の類似症状の疾患

- 逆流性食道炎(GERD)
- 咽頭炎、扁桃炎、喉頭炎
- 心因性咳嗽
- 下咽頭癌や甲状腺腫瘍などの悪性疾患
これらと鑑別するには、やはり内視鏡や画像検査が重要です。
咽喉頭異常感症にならないための予防・日頃のケア
- 寝る直前の飲食を控える(逆流予防)
- 枕を高くして寝る(Fowler体位)
- 喉を乾燥させないようマスクや加湿器を使用
- ストレスをためない生活習慣(深呼吸、趣味、軽運動)
- 食事は脂っこいものやカフェイン、刺激物を控える
- 喉の違和感があるときは、ツボ刺激で気を落ち着かせるのも一案
さいごに
咽喉頭異常感症は、命に関わる病気ではありませんが、患者本人にとっては非常に不快で不安を呼ぶ症状です。「ヒステリー球」として片付けられてきた時代とは異なり、現代では心と体の両面からアプローチする必要があると理解されています。
正確な診断と原因に合った治し方を見つけることで、症状は改善が期待できます。自己判断せず、早めに耳鼻咽喉科や消化器内科の専門医に相談しましょう。