「薬を飲んでも鼻炎が治らない」「花粉の季節が怖い」――そんな悩みに対して、アレルギーそのものを抑える治療法として注目されているのが舌下免疫療法(SLIT)です。
本記事では、日本で保険適用されているダニとスギ花粉に対するSLITについて、仕組み、効果、副反応、費用面、そして注意点まで、専門的知見と最新研究をもとに解説します。
- 舌下免疫療法(SLIT)は、アレルギー反応の原因に直接働きかけ、体質改善を目指す唯一の根本治療
- 日本で保険適用されているのは、スギ花粉とダニアレルゲン
- 5歳以上の小児から高齢者まで使用可能で、毎日1錠を自宅で服用するだけの手軽な方法
- 治療期間は原則3~5年で、1年以内に効果を実感する人が多数
- 副反応は軽度(口の中のかゆみなど)が中心で、重篤な副作用はまれ
- 月2,000〜3,000円程度の保険適用価格で治療可能
- スギ花粉とダニ両方の治療を同時に行う「Dual SLIT」も安全性が確認されている
- 治療開始前に副反応や継続の重要性を理解することが成功の鍵になる
治療前に理解しておきたいポイントを押さえることで、舌下免疫療法を安心してスタートできます。
舌下免疫療法とは?

舌下免疫療法(SLIT: Sublingual Immunotherapy)は、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を少量ずつ舌の下から投与し、体を慣らしていくことで過剰な免疫反応を抑える治療法です。
従来の薬物療法が症状を「一時的に抑える」のに対し、SLITはアレルギーの根本的な体質改善を目的とした治療法であり、世界保健機関(WHO)も「唯一の病因治療」として位置付けています。
1日1回、錠剤を舌の下に1〜2分保持するだけのシンプルな方法で、継続的に治療することで体がアレルゲンに対して過敏に反応しなくなり、薬がいらない状態を目指します。
対象アレルゲン:スギとダニ

SLITはすべてのアレルギーに使えるわけではありません。
現在、日本で保険適用されているのは「スギ花粉」と「ダニ(ヒョウヒダニ)」の2種類のみです。
アレルゲン | 発症時期 | 対象疾患 | 主な薬剤 |
ダニ(ヒョウヒダニ) | 通年性 | ダニを原因とするアレルギー性鼻炎 | ミティキュア®/アシテア® |
スギ花粉 | 2〜4月 | スギ花粉症 | シダキュア® |
また、SLITは5歳以上であれば小児でも治療可能です。
治療の流れと費用
舌下免疫療法の流れは、以下のように進みます。
治療前の検査
まず、血液検査や皮膚テストでアレルゲンの特定を行います。スギやダニに対して明確なアレルギー反応があることが条件です。
治療開始
- 初回服用は医療機関で行い、30分間の経過観察をします。
- 以降は1日1回、自宅で服用を継続します。
費用(保険適用)
- 保険適用(3割負担)で月2,000〜3,000円程度
- 初診時の検査料は別途必要ですが、長期的には薬代や通院頻度を減らせ、経済的負担は軽くなります。
効果と年齢別の違い
SLITの効果には個人差がありますが、継続的に治療すれば7〜8割の人が改善を実感しています。
- ダニSLIT:1年以内に効果を感じる人が多く、くしゃみ・鼻づまり・咳の改善がみられます。
- スギSLIT:治療初年度よりも2〜3年目に効果が明確に現れやすく、花粉シーズンの症状が大幅に軽減されます。
臨床研究では、小児と成人で効果や副反応に大きな差はなく、子どもにも安全に使用できることが確認されています。
併用療法(Dual SLIT)について

スギ花粉とダニの両方にアレルギーがある人も多く、近年では「併用舌下免疫療法(Dual SLIT)」が実施可能になっています。
- 日本で行われた研究により、スギ用薬(シダキュア®)とダニ用薬(ミティキュア®など)を同時に服用しても安全であることが確認されました。
- 多くの医療機関で200例以上のDual SLITが行われており、効果も高く、副作用の増加は見られていません。
副反応と注意点
舌下免疫療法は基本的に安全ですが、副反応について正しく理解しておくことが重要です。
主な副反応(軽度が中心)
- 口の中のかゆみ、違和感、軽い腫れ
- 治療開始初期に多く、1か月ほどで軽減
まれな副作用(要注意)
- 喘息の悪化、呼吸困難(ごく稀)
- アナフィラキシー(世界で十数例、日本での報告はきわめて少数)
注意が必要なケース(禁忌)
- 重度の喘息、自己免疫疾患、妊娠初期、口腔内に病変がある場合などは治療できない場合があります。
また、SLITは毎日継続してこそ意味がある治療法であり、数日~数週間の中断で効果が低下するため、アドヒアランス(継続意欲)が成功の鍵になります。
日常生活でのサポート

舌下免疫療法の効果を最大化するためには、日常生活の工夫も欠かせません。
ダニ対策(通年)
- 寝具は週1回以上洗濯+高温乾燥
- 室内湿度を50%以下に保つ
- 空気清浄機の活用、フローリング化
スギ花粉対策(季節性)
- 花粉予報をチェックし、飛散日には外出を控える
- マスク・メガネの着用
- 洗濯物を室内干しにする
こうした対策を併用することで、SLITの効果を引き出すことができます。
まとめ:薬に頼らない体質改善を目指して
舌下免疫療法は、アレルギー性鼻炎の根治的な治療法として、近年大きく注目されています。
副作用は軽度で安全性が高く、保険も適用されることから、小児を含めた多くの患者さんが治療を受けやすい環境が整いつつあります。
「薬を減らしたい」「アレルギー体質を変えたい」と感じている方は、耳鼻咽喉科での相談から始めてみましょう。
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