耳下腺腫瘍は、唾液腺の一種である耳下腺から生じる腫瘍のことを指します。
比較的まれな疾患ですが、小児期にも発生することがあります。一般的に良性の腫瘍である場合が多く、病理組織的な種類は多様で、2017年のWHO分類では唾液腺にできる腫瘍を11種類の良性腫瘍、21種類の悪性腫瘍などに分けています。
主な症状
耳下腺腫瘍では、良性腫瘍の場合、痛みや発熱などの症状がないため、小さいうちはわからないこともあります。耳の下側が腫れていることにより気づかれる場合が多く、腫瘍が大きくなると、耳下腺の周囲の筋肉や神経を圧迫して症状を引き起こすことがあります。
特に、顔を動かす神経である顔面神経が耳下腺の周囲を走っているため、顔の一部や半分の動きが悪くなってしまう顔面神経麻痺の症状には注意する必要があります。
腫瘍が悪性腫瘍である場合には、痛みや周囲組織との癒着、顔面神経の麻痺といった症状をみとめます。また、周囲の組織やリンパ節に転移することがあるため、首の腫れなども伴うことがあります。
必要な検査とその所見について
腫瘍がどこに、どれくらいの大きさであって、その周囲の組織との関連はどうかといったことについて検査で判断していきます。まずは身体診察で、腫瘍の形状や触感、動きやすさ、痛みや圧痛の有無、リンパ節の腫れの有無などを調べることが重要です。
また、エコー検査やMRI検査、CT検査などの画像診断を行うことで、腫瘍の大きさや形状、位置関係、周囲の組織の状態などを詳しく評価することができます。
診断のためには、組織や細胞の一部分を顕微鏡で確認する病理検査が必要となり、腫瘍の細胞診検査や組織診断検査も行います。
針生検での検査では、良悪性の判断が難しい場合もあり、最終的には手術によって摘出した腫瘍をみることで診断がえられます。
治療方法について
耳下腺腫瘍の主な治療方法は、手術加療による摘出が中心となります。
手術の際には、病変の大きさや部位、周囲の組織の状態などを考慮して、適切な手術法を選択します。一般的には、耳の後から下部分の皮膚を切開して、腫瘍を摘出する方法が行われます。
良性腫瘍であれば、顔面神経の温存と完全な腫瘍の摘出を目的として、耳下腺を含めた腫瘍を切除することが一般的です。
悪性腫瘍の場合は、腫瘍の完全な摘出を第一に手術を行います。腫瘍の進展や種類によって、顔面神経を温存するために腫瘍の一部を残して、放射線療法などの複合的な治療が必要となる場合もあります。
手術の前に診断がつかない場合では、手術中に迅速病理を出して、その結果をもとに方針を決めるため、術前の方針と異なる可能性に注意する必要があります。
また、術中の病理検査でも診断がつかない場合があることにも留意する必要があります。
治療を考える際の注意点
治療を考える際には、病状の程度や治療法による副作用などを含め、リスクと利益を慎重に考慮する必要があります。
例えば、耳下腺腫瘍の治療によって、顔の神経が損傷した場合には、食事が漏れてしまったり、表情が変わることがあるため、精神的なストレスを感じることがあります。手術後のケアやリハビリテーションにも注意が必要です。
治療法の選択にあたっては、耳鼻科専門医としっかりと相談し、方針を決めていくことをお勧めします。
- 耳下腺腫瘍は、唾液腺の一種である耳下腺から生じる腫瘍で、こどもにも発生することがある
- 耳の下部分の腫れで気づくことが多く、サイズが小さいときはわからないことも多い
- 病理のタイプは様々で、検査では診断がつかず、最終診断は手術によって摘出した所見をもとにわかることが多い
- 治療としては、手術による摘出が基本となり、とくに顔を動かす神経の取り扱いについて注意する必要がある