繰り返す中耳炎でお困りの方や、なかなか治らない耳の不調に悩んでいる方へ。
鼓膜チューブ挿入術は、その名の通り、鼓膜にチューブを入れることで、「鼓室内の換気を改善し、中耳炎の再発を予防すること」を目的とした処置です。


主に対象となる疾患は、

  • 滲出性中耳炎(耳に液体がたまり、聞こえにくくなる)
  • 反復性中耳炎(痛みや発熱などを伴う炎症を繰り返す)

があります。

鼓膜チューブ挿入術とは?

鼓膜チューブ挿入術とは?

鼓膜チューブ挿入術は、鼓膜に小さな通気用のチューブ(換気チューブ)を留置することで、中耳の換気を改善し、中耳炎の再発を防ぐ目的で行われる処置です。
対象疾患には、滲出性中耳炎反復性中耳炎などがあり、小児を中心によく行われます。

鼓膜チューブ挿入術の方法

手術は施設により異なり、局所麻酔または全身麻酔下で実施されます。
一般的な手順:所要時間はおおよそ15〜30分程度です。

  1. 鼓膜を専用のメス(鼓膜切開刀)で切開し、貯留液を吸引。
  2. シリコンやフルオロプラスチック製の換気チューブを鼓膜に挿入。

鼓膜チューブ挿入術の合併症

手術は比較的安全ですが、以下のような合併症が報告されています。

主な合併症
  • 出血(静脈球損傷による出血)
  • 外耳道や耳小骨の損傷
  • 鼓膜穿孔の残存(チューブ抜去後も穴が塞がらない場合)
  • チューブの鼓室内への脱落や鼓室内異物

特殊症例への対応

難治性中耳炎や鼓膜アテレクターシス(ひどく鼓膜が凹んでしまう)に対しては、単純なチューブ挿入だけでなく、Subannular Tube(SAT)留置や軟骨鼓膜形成術を同時に行う方法も報告されています。
この方法は、チューブ脱落後の鼓膜穿孔リスクを減らし、長期的な換気効果を期待できる代替術式です。

鼓膜チューブ挿入術の術後に関して

  • 水泳(とくに川や海など)や汚水への接触は耳栓の使用を推奨します。
  • チューブが抜けた後に中耳炎が再発した場合、再手術の可能性があります。
  • 鼓膜の穿孔が閉じない場合、鼓膜形成術(myringoplasty)などが必要になることがあります。

補足:口蓋裂を合併する症例について

口蓋裂を有する症例では、中耳炎になるリスクも高く、チューブの長期留置(37〜42か月)が必要となることがあります。
一方で、鼓膜穿孔残存のリスクも上がるため、留置期間の調整が重要です。

術後耳漏とその対応

術後に耳漏(otorrhea)が生じた場合、まずは局所の清掃や抗菌薬点耳で対応します。難治性の耳漏に対しては、漢方薬(十味敗毒湯や十全大補湯)の有効性についても報告されています。
抗菌薬との併用により、チューブを抜去せずに耳漏が改善した症例もあり、安易に抜去せず、まずは保存的対応を行います。

鼓膜チューブ挿入術の代替治療について

全ての患者さんにチューブ挿入が必要なわけではなく、症状や状態に応じて他の治療法も選択されます。
鼓膜チューブ挿入術の代替としては以下の方法があります。

  • 内服治療:抗菌薬、去痰薬、抗ヒスタミン薬などで症状の改善を図ります。
  • 鼓膜切開のみ:一時的に中耳の液体を排出する処置です。(チューブは留置しない)
    繰り返し行う場合は、チューブ留置が検討されます。
  • SAT留置や軟骨鼓膜形成術:再発を繰り返す場合や構造的な問題がある場合に実施。
鼓膜チューブ挿入術の手術方法・合併症・代替治療について詳しく解説

患者さんへのメッセージ

鼓膜チューブ挿入術は中耳炎の再発予防や聴力の改善に効果的な治療法です。

ただし、すべての患者さんにとって最善とは限りません。合併症や再発の可能性を含めて、十分に説明を受けたうえでご自身の治療方針を考えることが大切です。

不安がある場合は、専門医におたずねください。最も適した方法を一緒に見つけていきましょう。

野田 昌生

この記事の監修

野田 昌生(のだ まさお)

  • 自治医科大学 耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科 講師
  • 耳鼻科専門医 医学博士