風邪を引いて病院に行ったとき、「抗生物質が出なかった」「前は出たのに」と疑問に思ったことはありませんか?一方で、「とりあえず抗生物質を出してもらった方が安心」と感じる方も少なくありません。

実は、抗生物質が処方されるかどうかには明確な医学的な理由があります。ただしその判断は単純ではなく、症状やそれまでの経過、年齢やその他の持病などを総合的に見て決められます。

本記事では、「抗生物質が出るとき・出ないときの違い」をテーマに、抗生物質の基本的な知識から、処方の背景、そして副作用や注意点までをわかりやすく解説します。

POINT
  • 抗生物質は細菌にのみ効果があり、風邪(ウイルス)には効かない
  • 状態やリスクに応じて、処方されるかが判断される
  • 副作用(下痢など)やアルコールとの相互作用に注意
  • 不要な抗生物質は、副作用や耐性菌の原因になる

抗生物質が処方されないことには、きちんとした理由があります。処方の有無に疑問を持つのではなく、その背景を正しく理解することが大切です。

抗生物質とは?

抗生物質とは?

抗生物質(抗菌薬)とは、細菌感染症に対して効果を発揮する薬です。代表的なものにはペニシリン系、セフェム系、マクロライド系などがあり、感染の原因となる細菌を殺菌・抑制する働きがあります。
ただし、風邪やインフルエンザといったウイルスによる感染症には効果がありません。抗生物質はウイルスを攻撃することができないため、ウイルス性の病気には不要なのです。

風邪に抗生物質が出ない理由

いわゆる「風邪」は、90%以上がウイルスによる感染です。鼻水、喉の痛み、発熱などの症状は多くの場合1週間ほどで自然に回復することが多く、抗生物質を使う必要はありません。
このため、風邪の症状だけでは抗生物質は処方されないのが一般的です。むしろ、不要な抗生物質の使用は下痢や発疹などの副作用や、将来効かなくなる「耐性菌」のリスクを高めるため、慎重な判断が求められています。

抗生物質が出るケース・出ないケース

【出るケース】

  • 細菌性の扁桃炎や咽頭炎(膿が見られる、発熱が続く)
  • 細菌性副鼻腔炎、中耳炎
  • 細菌性肺炎が疑われる場合
  • 尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎)など

【出ないケース】

  • 一般的な風邪(ウイルス性)
  • 鼻水、軽い喉の痛み、微熱のみ
  • インフルエンザ(抗ウイルス薬が対象)

症状が似ていても、原因が違えば治療も異なるため、診察の中で医師が必要性を判断しています。

医師の処方判断に影響する考え方

一部の医師は、抗生物質を「念のため」「悪化予防」として処方する場合があります。
特に高齢者、糖尿病、がん治療中の方など免疫が低下しているケースでは、細菌の二次感染予防として抗生物質を早めに使う判断がされることもありますが、抗生物質の安易な使用は耐性菌の増加や副作用リスクを招くため、近年はより厳密なガイドラインに基づいた処方が推奨されています。

抗生物質の副作用(下痢など)

抗生物質の副作用(下痢など)

抗生物質の最も多い副作用は「下痢」です。腸内の善玉菌まで殺してしまうため、腸内環境が乱れ、軟便や腹痛を引き起こすことがあります。
その他、以下の副作用にも注意が必要です。

副作用が出た場合は、すぐに医師に相談することが大切です。

抗生物質とアルコールの注意点

抗生物質を服用中は、アルコールを控えるのが基本です。特に「メトロニダゾール」などの薬はアルコールと併用すると、「悪酔い」「吐き気」「動悸」などの重い副作用(ジスルフィラム様反応)を引き起こす可能性があります。

たとえそうでない種類の抗生物質でも、肝臓での代謝が妨げられたり、体調が悪化するリスクがあるため、治療中の飲酒は避けるようにしましょう。

市販薬との違いとは?

市販の風邪薬には抗生物質は含まれていません。市販薬は、発熱やのどの痛み、鼻水などの症状を一時的に和らげる「対症療法」が中心です。
一方、抗生物質は医師の診察と診断のもとではじめて処方される、「病気の原因(細菌)」そのものを排除する治療薬です。市販薬で改善しない場合や症状が悪化している場合は、早めに受診しましょう。

正しく使うためのポイント

正しく使うためのポイント
  • 処方された抗生物質は必ず最後まで飲み切る
  • 症状が良くなっても自己判断で中断しない
  • 他人に薬を譲ったり、自分の過去の薬を使いまわさない
  • 飲み忘れた場合は医師や薬剤師に相談
  • アルコールは、治療中は控える

さいごに

抗生物質が処方されるかどうかには、明確な医学的根拠があります。
処方された場合は「必要だから出された」、されなかった場合は「必要ないから出さなかった」——そのどちらにも、医師の判断と責任が伴っています。

抗生物質は万能薬ではありませんが、必要なときに、正しい知識を持って使うことが、健康や将来の医療を守る最良の方法です。不安や疑問があれば、遠慮なく医師に相談してください。

野田 昌生

この記事の監修

野田 昌生(のだ まさお)

  • 自治医科大学 耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科 講師
  • 耳鼻科専門医 医学博士