副鼻腔炎というと、「抗菌薬を飲めば治る病気」というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし実際には、急性副鼻腔炎慢性副鼻腔炎では治療の考え方が大きく異なります。特に慢性副鼻腔炎では、炎症のタイプや鼻茸(鼻ポリープ)の有無によって、薬だけでみるのか、手術を考えるのか、さらに近年は生物学的製剤を検討するのかが変わってきています。最近の総説でも、慢性副鼻腔炎は一つの病気ではなく、複数の病態を含む疾患群として整理されています。

この記事では、「副鼻腔炎=抗菌薬」だけではない今の治療の考え方を、一般の方にわかりやすく整理します。特に、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の中でも重要な好酸球性副鼻腔炎(ECRS)と、生物学的製剤の位置づけまで解説します。

POINT
  • 副鼻腔炎は、急性慢性で治療の考え方が異なります。慢性副鼻腔炎は一般に12週間以上症状が続くものを指します。
  • 慢性副鼻腔炎では、鼻洗浄や点鼻ステロイド薬などが基本になり、必要に応じて手術を検討します。
  • 鼻茸を伴う重症・再発例、特に好酸球性副鼻腔炎では、近年生物学的製剤が新しい選択肢になっています。日本では2025年2月時点でデュピルマブとメポリズマブ、2025年12月にデペモキマブが鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎で承認されています。

副鼻腔炎とは?急性と慢性の違い

副鼻腔炎は、鼻の周りにある空洞(副鼻腔)に炎症が起こる病気です。一般には「蓄膿症」と呼ばれることもありますが、実際には急性副鼻腔炎慢性副鼻腔炎で性質が違います。急性では風邪のあとに起こることが多く、慢性では炎症が長引き、鼻づまり、嗅覚低下、後鼻漏、頭重感などが続きます。慢性副鼻腔炎は、一般に12週間以上の症状の持続と所見がそろって診断されます。

急性と慢性の違い

項目急性副鼻腔炎慢性副鼻腔炎
期間の目安数日〜数週間12週間以上
よくあるきっかけ風邪、ウイルス感染のあと炎症の遷延、鼻茸、体質、喘息など
主な症状鼻づまり、膿性鼻汁、顔面痛、発熱鼻づまり、嗅覚低下、後鼻漏、頭重感、慢性的な鼻症状
治療の考え方対症療法が中心、必要時に抗菌薬点鼻薬、鼻洗浄、必要時に手術や生物学的製剤

急性副鼻腔炎の多くはウイルス性で、必ずしもすぐ抗菌薬が必要になるわけではありません。一方、慢性副鼻腔炎は、長く続く炎症をどうコントロールするかが中心になります。

薬物治療の基本

慢性副鼻腔炎では、近年の総説で一貫して重視されているのが、鼻噴霧用ステロイド薬鼻洗浄です。これらは鼻の中の炎症を抑え、鼻茸がある場合も含めて局所の状態を整える基本治療として位置づけられています。抗菌薬は急性の細菌性副鼻腔炎が疑われる場合には選択肢になりますが、慢性副鼻腔炎をそれだけで説明することはできません。

慢性副鼻腔炎でよく使われる治療

治療主な役割一般の方へのポイント
鼻噴霧用ステロイド薬鼻の炎症を抑える鼻づまりや鼻茸がある人で基本になりやすい
鼻洗浄鼻内環境を整える自宅で続けやすい補助治療
短期の全身ステロイド強い炎症を短期間で抑える長期連用を前提にする治療ではない
抗菌薬急性細菌感染が疑われる場合慢性副鼻腔炎の主役ではない
生物学的製剤Type 2炎症を標的に抑える鼻茸を伴う重症・再発例で検討される

手術はどんなときに考える?

手術はどんなときに考える?

慢性副鼻腔炎で手術が検討されるのは、十分な薬物治療でも症状が改善しない場合や、鼻茸が大きく、鼻の通りや嗅覚に強い影響が出ている場合などです。近年のレビューでも、内科治療で不十分な慢性副鼻腔炎に対して、内視鏡下副鼻腔手術は標準的な選択肢として位置づけられています。

ただし、手術をして終わりではありません。特に鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎では、術後も点鼻治療や経過観察が必要で、再発することもあります。だからこそ最近は、「薬か手術か」だけでなく、その次の選択肢として生物学的製剤が注目されています。

鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎とは

鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎は、鼻の中にやわらかいポリープ状の組織ができるタイプの慢性副鼻腔炎です。鼻づまり、嗅覚低下、後鼻漏が強く出やすく、再発しやすいのが特徴です。最近のレビューでは、このタイプは特にType 2炎症との関連が強く、喘息やNSAIDs過敏などを伴うこともあるとされています。

好酸球性副鼻腔炎とは?

日本で特に重要なのが好酸球性副鼻腔炎(ECRS)です。
ECRS
は、両側の多発性鼻茸、粘調な鼻汁、高度の鼻閉、強い嗅覚障害を示し、手術後も再発しやすい難治性の慢性副鼻腔炎です。喘息やNSAIDs不耐症を伴うことも多く、日本では指定難病として扱われています。難病情報センターでは、一般的な慢性副鼻腔炎と比べて、抗菌薬は効きにくく、ステロイドに反応しやすいことが特徴とされています。

日本では、JESRECスコアという考え方があり、両側病変、鼻茸、血中好酸球、CTでの篩骨洞優位陰影などをもとに、ECRSの可能性を評価します。さらに、鼻粘膜組織で一定以上の好酸球浸潤があれば確定診断につながります。

一般的な慢性副鼻腔炎との違い

項目一般的な慢性副鼻腔炎好酸球性副鼻腔炎(ECRS
主な特徴長引く鼻づまり、鼻汁、後鼻漏など鼻茸が多発しやすい、嗅覚障害が強い、再発しやすい
炎症のタイプさまざまType 2炎症が強いことが多い
抗菌薬の位置づけ場合により使う効きにくいことが多い
ステロイドの反応病型による比較的反応しやすい
合併しやすい病気病型による喘息、NSAIDs不耐症、好酸球性中耳炎など

つまり、同じ「慢性副鼻腔炎」でも、ECRSでは抗菌薬だけで説明できないことが多く、ステロイド治療、手術後の再発管理、生物学的製剤の検討まで含めた治療が重要になります。

生物学的製剤とは?

生物学的製剤は、炎症を起こす特定の分子や経路を狙って働く薬です。鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎では、特に IL-4/IL-13IL-5 に関わる Type 2炎症が治療標的になります。日本アレルギー学会の手引きでも、好酸球性副鼻腔炎では ILC2 を中心とした自然免疫 の関与が大きいと整理されています。

ただし、すべての副鼻腔炎の人に使う治療ではありません。一般に、重症で、通常の薬物治療や手術でも十分にコントロールできない人、あるいは再発を繰り返す人が候補になります。日本の手引きでも、手術後再発例や、従来治療でコントロール不十分な例で分子標的治療を検討するとされています。

 デュピクセント・ヌーカラ・エキシデンサーを表で整理

一般の方にとってわかりにくいところなので、日本で鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に関係する生物学的製剤を表で整理すると、次のようになります。
なお、保険適用や実際の運用は時期や施設によって異なるため、最終的には担当医と確認が必要です。

製品名一般名主な標的鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎での位置づけ投与間隔の目安
デュピクセントデュピルマブIL-4 / IL-13 経路既存治療で効果不十分な鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に使用。症状安定後は4週ごとに調整可能通常2週ごと、安定後4週ごとも可
ヌーカラメポリズマブIL-5既存治療で効果不十分な鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に使用。好酸球が関与する病態と相性がよい通常4週ごと
エキシデンサーデペモキマブIL-5既存治療で効果不十分な鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に対して承認。26週までに反応を評価通常26週ごと

デュピクセントについては、PMDA審査報告書と日本アレルギー学会の手引きで、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に通常300mg2週間隔で投与し、症状安定後は4週間隔にできると示されています。ヌーカラは、PMDA掲載資料で20248月に鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の適応追加承認が示されています。エキシデンサーは、PMDA公開資料で202512月承認、26週間ごとの投与が示されています。

どんな人が候補になりやすい?

生物学的製剤が検討されやすいのは、たとえば次のようなケースです。

こんな場合に検討されやすい理由
点鼻薬や標準治療で十分に改善しない既存治療だけでは炎症を抑えきれない可能性がある
手術後に再発を繰り返す再発性・難治性の可能性がある
鼻茸が大きく、鼻づまりや嗅覚障害が強い症状負担が大きい
喘息などType 2炎症関連疾患を伴う病態的に生物学的製剤が合うことがある
ECRSと考えられる好酸球優位の炎症が強く、再発しやすい

一般の方にとっての受診判断

一般の方にとっての受診判断

副鼻腔炎の治療は、今や「抗菌薬を出して終わり」ではありません。
そのため、次のような場合は耳鼻咽喉科で一度しっかり相談する価値があります。

特に、鼻づまりと嗅覚低下が長引く人は、急性の感染だけでなく、慢性副鼻腔炎や鼻茸を伴うタイプ、さらにECRSの可能性があります。こうしたタイプはQOLへの影響も大きく、放置してよい症状ではありません。

さいごに

副鼻腔炎の治療は、以前よりかなり整理されてきています。
急性副鼻腔炎では、必ずしもすぐ抗菌薬が必要ではなく、慢性副鼻腔炎では点鼻薬や鼻洗浄が基本になります。さらに、十分な薬物治療でも改善しない場合には手術が、鼻茸を伴う重症・再発例、特に好酸球性副鼻腔炎では生物学的製剤が新しい選択肢になっています。

つまり、今の副鼻腔炎治療は「薬か手術か」だけではなく、病気のタイプに合わせて段階的に考える時代です。
鼻づまり、嗅覚低下、再発を繰り返す症状がある場合は、耳鼻咽喉科で今の治療選択肢を相談してみるとよいでしょう。特に鼻茸がある人では、デュピクセント、ヌーカラ、エキシデンサーのような生物学的製剤が話題になることもあります。

参考文献

  • 好酸球性副鼻腔炎(指定難病306). 難病情報センター.
  • アレルギー総合診療のための分子標的治療の手引き 2025. 日本アレルギー学会.
  • デュピクセント審査報告書・PMDA公開資料.
  • ヌーカラ PMDA公開資料.
  • エキシデンサー PMDA公開資料
野田 昌生

この記事の監修

野田 昌生(のだ まさお)

  • 自治医科大学 耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科 講師
  • 耳鼻科専門医 医学博士