人工内耳は世界で最も普及している人工臓器の一つで、人工的に外部の音を電気刺激に変えて、内耳へと信号を伝えるデバイスのことです。これにより、音が聞こえない方にも音やことばが聞こえるようになる可能性があります。
こどもでは特に、言葉の獲得に関して音が聞こえることは非常に重要です。
そのため、言葉を獲得するのに重要な時期において、補聴器などで音を大きくしても聞こえない方には、できるだけ早期に人工内耳を埋め込むことが必要となります。

適応基準

2022年日本耳科学会の小児人工内耳適応基準では、手術前から術後の療育まで一貫した協力体制がとれていることを前提とした上で、以下の基準を挙げています。(一部改変)

時期

  • 原則体重8kg以上または1歳以上
  • 言語習得期以後で聞こえなくなった場合で、補聴器の効果が十分でない高度難聴が確認された時

聴力

  • 裸耳(補聴器などを装用していない場合)での平均聴力レベルが90dB以上、
  • 確認できない場合は6ヶ月以上の最適な補聴器装用後、装用していても平均聴力レベルが45dBより改善しない場合
  • 確認できない場合は6ヶ月以上の最適な補聴器装用後、装用していても最高語音明瞭度が50%以下の場合

補聴効果と療育

  • 学習のために補聴の基本は両耳聴であり、両耳聴の実現のためには人工内耳は有用

例外的適応条件

  • 髄膜炎後蝸牛骨化症例では手術年齢に関して例外となる
  • 既知の高度難聴をきたしうる難聴遺伝子バリアントを有し、かつABR等の聴力に関連した検査で反応が認められない場合
  • 低音部に残聴があるが、1kHz-2kHz以上が聴取不能であるように子音の構音獲得に困難が予想される場合

中耳炎などの感染がある場合は禁忌とされています。その他、

  • 画像検査で人工内耳が挿入できる部位が確認できない場合
  • 反復性の中耳炎がある場合
  • 制御困難な髄液の噴出など、高度な内耳奇形を伴う場合
  • 重複障害および中枢性聴覚障害がある場合(人工内耳を使用しても、さらに中枢でうまく音の信号が伝わらない場合があります)

適応基準については、現状が基準にあっているのかどうかを判断する必要があります。

適切に検査や診断、治療ができる施設や耳鼻科専門医に相談することをお勧めします。

野田 昌生

この記事の監修

野田 昌生

  • 自治医科大学 耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科 講師
  • 耳鼻科専門医 医学博士