被膜内扁桃切除術(PIT)は、扁桃腺を被膜の内側から切除して取り除く手術です。また、アデノイド切除術は、鼻の突き当たりにあるアデノイドという免疫の組織を切除する手術です。

主に、いびきや睡眠時無呼吸症に対して、息の通り道を拡げるために行います。
従来の扁桃摘出術(扁摘)と異なり、近年ではパワーデバイス(例:マイクロデブリッダー、コブレーター)を用いた術式が注目されています。これにより、安全性や術後回復の面で大きな進歩が見られています

被膜内口蓋扁桃切除術、アデノイド切除術(PITA)について

被膜内口蓋扁桃切除術、アデノイド切除術(PITA)について

手術の目的と効果

主な目的は、上気道(鼻〜のどの空気の通り道)を広げることです。
特に以下の症状がある方に効果が期待されます。

  • 睡眠時無呼吸(夜間の無呼吸、いびき)
  • 日中の眠気・集中力の低下
  • 成長や発達の遅れ(特に小児)
  • 繰り返す中耳炎や副鼻腔炎

これらはすべて、呼吸がうまくできないことが一因となっていることがあります。

手術の方法と流れ

  1. 全身麻酔下で行い、手術時間は約1時間です。
  2. 懸垂頭位にて開口器を装着して口を開け、手術視野を確保します。
  3. 口蓋扁桃の被膜(外側の膜)を残しつつ、内部組織(実質)を90%程度切除します。
  4. 同時に、内視鏡を用いて鼻の奥にあるアデノイドも内視鏡下で切除します。
  5. 出血は吸引および電気凝固で制御され、必要最小限の凝固で止血します。
被膜内口蓋扁桃切除術、アデノイド切除術の手術方法・合併症・代替治療を詳しく解説

被膜内切除術(PIT)と従来法の違い

従来の扁摘(被膜ごと摘出)に比べ、被膜内切除術は以下の利点があります。

比較項目被膜内切除術(PIT従来の扁桃摘出術(扁摘)
出血率約0.2〜0.7%約3〜5%
術後痛軽度強い
回復の早さ 早く食事可能時間がかかる
再手術率ごくわずか同程度

※被膜を残すことで術後の回復が早く、生活への影響が少ないという点でメリットのある術式です。(Noda et al.2023 Auris Nasus Larynx)
また、口が小さい場合にも内視鏡を使うことで施行可能となるため、口が開きづらい場合やより低年齢でも手術を検討できます。

被膜内口蓋扁桃切除術、アデノイド切除術の主な合併症

被膜内口蓋扁桃切除術、アデノイド切除術の主な合併症

以下が主な合併症です。

術後出血(後出血)

  • 最も注意が必要な合併症で、早期(術後24時間以内)、晩期(術後7日前後)に分類されます。
  • PITでは0.5%未満、従来法では3〜5%が報告されています。

扁桃またはアデノイドの再増殖

  • 残存した組織が再増殖し、再び閉塞症状を来すことがありますが、頻度は低いとされます。

口腔内の一時的なトラブル

  • 舌や口蓋垂のしびれ、口内炎、口角炎。
  • 器具による圧迫や術中操作によるもの。

味覚障害・のみこみづらさ

  • 一時的な神経刺激による症状であり、通常は時間とともに改善します。

被膜内口蓋扁桃切除術、アデノイド切除術の代替治療について

CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)

  • マスクを装着し、寝ている間に空気の通りを保つことで、睡眠時無呼吸に対する非侵襲的治療法です。
  • 手術を希望しない方や、手術自体にリスクがある方には有効ですが、小児では装着の継続が難しい場合もあります。

その他にも、鼻づまりがひどい場合は鼻炎の治療、噛み合わせが原因の場合にはマウスピース装着など、原因にあわせて治療することで症状が軽くなる場合があります。

術式の選択

手術の術式は施設や術者によっても考え方が異なります。また、扁桃炎や扁桃周囲膿瘍などの感染に対する手術では扁桃の被膜を合わせてとる従来の扁摘が有効です。
小児睡眠時無呼吸では、手術後の栄養や出血のリスクを考慮すると、負担の少ないこの手術が推奨されます。

ご家族へのメッセージ

ご家族へのメッセージ

この手術は、睡眠の質を大きく改善し、日中の生活・成長・発達を支えることを目的としています。また、近年の手術方法の進歩により、以前よりも安全性が高く、回復も早くなってきています。
とはいえ、「本当に必要か?」「タイミングはいつがよいか?」など、判断に迷うこともあるでしょう。
不安な点があれば、耳鼻咽喉科専門医にじっくりご相談ください。

こんな症状があるときは、ぜひ受診を

  • いびきが大きい・寝ているときに止まっている
  • 夜何度も目を覚ます
  • 朝スッキリ起きられない・日中ぼーっとしている
  • 発達・学習に心配がある
野田 昌生

この記事の監修

野田 昌生(のだ まさお)

  • 自治医科大学 耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科 講師
  • 耳鼻科専門医 医学博士