「嗅神経芽細胞腫(きゅうしんけいがさいぼうしゅ)」とは、鼻の奥にできる稀な悪性腫瘍で、早期発見が難しいことから心配される方も多い病気です。
どんな症状が出るのか、治るのか不安になりますよね。

POINT
  • 早期診断が予後を大きく左右する
  • 生存率は病期(病気の進み具合)で大きく異なる
  • 治療後も長期にわたり転移の可能性があるため注意が必要

嗅神経芽細胞腫は発見の遅れが命に関わるケースもあります。
正しい知識を持ち、早期対応することが重要です。

嗅神経芽細胞腫の主な症状

嗅神経芽細胞腫の主な症状

嗅神経芽細胞腫では、初期には片方の鼻だけがつまる、鼻血がよく出る、嗅覚障害(においがしない)などが多く見られます。
進行すると、目の見え方(視力障害)や目の動き(眼球運動障害)がおかしくなったり、顔面のしびれ、頭痛などが出現し、腫瘍の範囲が副鼻腔や頭蓋内に及ぶケースもあります。

実際に、患者さんの中には症状に気づいてから数ヶ月放置してしまうこともありますが、同じ側の鼻血が断続的に続いたり、嗅覚が戻らないときなど「いつもと違うな」「片方の鼻だけ変だな」と感じたら、耳鼻科で検査を受けることをおすすめします。

嗅神経芽細胞腫の原因・なり易い方

嗅神経芽細胞腫は、嗅上皮と呼ばれる部位から発生するとされ、悪性腫瘍の中でも非常に稀なタイプです。原因は明確には解明されていませんが、遺伝的素因や環境因子の関与が指摘されています。
好発年齢は10代後半から20代、50代と2つのピークがあり、男女比はやや男性が多い傾向です。
慢性的な副鼻腔炎や鼻炎を持つ方、長年鼻の不調を放置している方は注意が必要です。

嗅神経芽細胞腫の検査/診断の方法

嗅神経芽細胞腫の検査/診断の方法

診断にはまず鼻内視鏡やCT、MRIを使用し、腫瘍の存在と広がりを確認します。
ただし、画像検査では特徴的な所見が乏しいため、確定診断には腫瘍の一部を取り出して、顕微鏡で調べる生検による病理診断が必須です。生検の際は、腫瘍が血流豊富であるため、出血リスクを考慮しながら行います。
また、15%程度で頸部リンパ節転移、さらに肺・脳・骨などへの遠隔転移も報告されており、PET-CTを用いた全身評価が推奨されます。
診断がついたあとは、病気の進み具合(病期)を評価します。Kadish分類やDulguerov & Calcaterra分類で行い、悪性度はHyams分類を用いて評価されます。このステージやグレードによって、治療の方法やその後の見通し(予後)が変わってくるため、正確な診断がとても重要です

嗅神経芽細胞腫の治療方法・回復期間の目安

嗅神経芽細胞腫の治療では、がんをしっかり取り除くことと、再発を防ぐことがとても大切です。基本治療は手術と放射線治療の併用で、腫瘍の広がりに応じて、経鼻内視鏡手術、開頭併用手術、必要に応じて術後に放射線治療が選択されます。
早期であれば、体の負担が少ない、開頭を伴わない経鼻内視鏡下手術が行われることが増えています。
放射線治療は局所制御に優れ、特に切除断端陽性例や脳浸潤のある進行例で有効とされています。
近年では、体への負担が少ない「IMRT」や「陽子線治療」などの新しい方法も使われ始めています。

5年生存率は病期によって異なり、Kadish A・Bでは80〜100%、Cでは50〜80%と報告されています。術後は1−4週間の入院が必要で、その後の放射線治療や回復期間を含めると治療期間は約3〜6ヶ月が一般的で、長期的な再発リスクを考慮し、少なくとも5〜10年、理想的には生涯にわたる経過観察が必要です。

嗅神経芽細胞腫の類似症状

副鼻腔炎、鼻ポリープ、鼻腔悪性黒色腫、横紋筋肉腫などが類似症状を示します。特に鼻出血や嗅覚障害が長引く場合には、これらとの鑑別が重要です。

嗅神経芽細胞腫にならないための予防・日頃のケア

嗅神経芽細胞腫にならないための予防・日頃のケア

明確な予防法はありませんが、2週間以上続く鼻づまりや鼻血、嗅覚の異常には注意しましょう。定期的な耳鼻科受診と、鼻内所見をチェックできる鼻内視鏡検査を受けることが早期発見の鍵となります。
また、有害環境(溶剤や粉じん)での職業に従事している方は防護具の使用を徹底してください。

さいごに

嗅神経芽細胞腫は非常に稀な疾患ですが、適切な治療と長期的な経過観察によって、良好な結果が得られることが多いです。
私たちは最新の治療法と知見を基に、患者さまの安心と健康を第一に考えた医療を提供しています。少しでも気になる症状がある方は、早めの相談をおすすめします。

上野 貴雄

この記事の監修

上野 貴雄(うえの たかよし)

  • 金沢大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 助教
  • 日本鼻科学会認定 手術指導医
  • 耳鼻科専門医 医学博士