鼓室形成術は、鼓室という中耳にある空間を作る手術です。

  • 病変の除去や処理
  • 聞こえを作り直す伝音再建(でんおんさいけん)

の二つの大きな目的があります。中耳に病変がある疾患が適応となり、主なものとして

  • 真珠種性中耳炎
  • 慢性中耳炎や鼓膜穿孔
  • 耳小骨奇形や鼓室硬化症による伝音難聴

が挙げられます。

最近では手技の多様化や組み合わせにより、施設や術者、症例ごとに多種多様の術式が存在しています。今回は、とくに真珠腫性中耳炎を対象にした場合についてご説明します。

手術の目的

真珠腫は上皮組織(皮膚のような組織)が鼓膜の内側(中耳腔)へ向かって入り込み、内部で増殖するものです。中耳内で増殖し続けると、周囲の骨を破壊する可能性があるため、進行するといろいろな合併症を伴う危険があります。例えば、内耳障害に伴う神経性難聴やめまい、顔面神経麻痺などが挙げられます。

真珠腫の進行にともなう合併症を防ぐためには、真珠腫を早期にしっかりと除去し、聴力を可能な限り温存や改善することを目標に手術を行います。

手術の方法

この手術は小児の場合、全身麻酔で行い、手術時間の目安は2〜3時間です。進展部位や他の合併症などによって、時間は前後します。一般的な手術の流れとしては、以下の通りです。

  1. 耳介の後方(前方や上方のこともあります)を切開し、側頭部の筋膜や結合織を採取します。これは、鼓膜の再建材料になります。
  2. 側頭骨や外耳道の骨を一部削り、鼓膜の奥にある鼓室に到達し、側頭骨内や鼓室内の真珠腫を確認・除去します。
  3. 耳小骨(音を伝える仕組みの骨)を確認し、必要があれば一部摘出します。
  4. 耳小骨を摘出した場合は、摘出した耳小骨や耳介軟骨などを用いて音を伝える仕組みを再建します。
  5. 鼓膜や外耳道の皮膚で足りない部分は、採取した組織をあてます。再建組織を生体のりで固定します。
  6. 止血や鼓膜の安定のため、外耳道内にガーゼを挿入します

※1 手術方式によって、耳の中から内視鏡を使って手術をする場合や、外耳道の骨を削らずに操作をする場合があります。
※2 真珠腫病変の程度がひどい場合には、手術を2回に分けて行わねばならない事があります。この場合1回目の手術では、病変を取り除き炎症の無いきれいな耳を作り、2回目の手術で聞こえの再建を行う事になります。手術が二回必要になるか否かの判断は一回目の手術時に中の状態を見て決めます。

主な合併症

この手術に関する主な合併症としては以下のものがあります。

1)術後感染

抗菌薬などの薬の治療にもかかわらず、手術後に耳の感染・炎症が持続することがあります。感染がひどいと鼓膜に穿孔が生じたり、治癒が遅れたり、術後の聴力が悪くなったりする可能性があります。

手術後しばらくは創部を汚したり、強く鼻をかんだり、外耳道に汚れた水を入れたりしないよう注意してください。また、鼻をすすることも鼓膜の凹みの原因になるので控えましょう。

2)術後聴力

手術後もしばらくの間、聴こえが手術前と比べて悪くなることがあります。鼓膜や中耳腔の治癒が進み、聴力の安定が得られるのに個人差がありますが、1~3ヵ月程度かかります。二段階の手術が必要な場合には、一回目の手術後に聴力が低下することもあります。

聴力改善のための手術をうけても、全例で聴力が上昇するとは限りません。時には手術後の治癒過程の障害や炎症の持続などにより、術後に聴力改善の得られないこともあります。また、非常にまれなのですが、内耳障害がおこると、聴力が手術前よりも悪くなる可能性もあります。中耳の手術は、きわめて微細な手術なので、理論的に期待されたとおりの聴力改善が得られない場合もある点を御了承下さい。

3)耳鳴

手術後、特にガーゼが入っている期間は、耳鳴が大きく感じられることがあります。これは次第に良くなる場合が多いようです。非常にまれですが、内耳障害がおこり、難聴の増強がみられる場合などには、耳鳴も強く感じられます。

4)めまい

手術後に、内耳の過敏性のために、めまいや吐き気が起こることがあります。術後1~2日間で自然におさまるものや、数日間続くこともありますが、いずれ治ります。その後の、軽いふらつき感や、頭を急に動かした時のめまい感もいずれ改善されます。手術前から時々めまいのある場合を除き(真珠腫により内耳が一部壊れている場合など)、めまいがいつまでも続くことは稀です。

5)味覚障害、舌のしびれ感(5%程度)

手術後に、手術を受けた側の舌半分がしびれたり、食べ物の味がわからなくなることがあります。この部分を支配している神経が、鼓膜の近くを走っていて、手術中にこの神経を障害するためにおこります。多くの場合、数週間から数ヵ月間で改善されます。

6)顔面神経麻痺(1%以下)

顔面神経は耳の中を走っているため、手術後まれに手術を受けた側の顔面の筋肉の動きが一時的に悪くなることがあります。これは神経をとりまく骨の一部がもともと無かったり、神経の腫れがある場合におきる事がありますが、いずれ日時の経過と共に改善されることが多いものです。

まれに、手術中に顔面神経が障害されたり、時には病変(腫瘍など)の除去のために、神経を切らねばならない場合もあります。

7)脳脊髄液漏

手術中および手術後に脳脊髄液が漏れ出ることがあります。その場合、頭部挙上でベッド上安静の延長や、背中から脊髄腔に細い管を入れてしばらくベッド上で安静にする必要があります。また再手術により瘻孔を塞がなければならない場合があります。 

8)出血、痛み

手術後に、傷から少量の出血がみられる事があり、まれに創部に血液が溜まることがあります。貯留した血液は自然と消失していくことが多いのですが、創を開いて除去が必要なこともあります。手術後の痛みは強くないことがほとんどですが、痛むときは鎮痛剤などを用います。

9)皮膚感覚

手術後当分の間、耳の周囲の皮膚の感覚が一時的に麻痺することが多いようです。

10)鼓膜穿孔

術後早期、あるいは時間がたってから鼓膜に穿孔を生じることがあります。中耳腔に圧がかかることや、中耳炎に罹患することなどで起こります。
小児は、成人とは異なる部分も多く、その特性について考慮しながら検査や治療方針の検討、必要なタイミングで手術にのぞむことが必要となります。例えば、

  • こどもでは一般に急性中耳炎に罹患しやすく、耳管の機能も不良であること
  • 難聴による生活への影響が大きいこと
  • 術後期間が成人より長いため、再発や機能改善の度合いによる影響が大きいこと

などが挙げられ、これらを踏まえて、手術の適応や術後の対応を行う必要があります。この手術を承諾されるかどうかは、患者さんの意思が尊重されます。承諾されない場合でも、診療上の不利益をうけることはありません。

手術・治療法に関して、ご不明な点がありましたら、耳鼻科専門医にご相談してください。

野田 昌生

この記事の監修

野田 昌生

  • 自治医科大学 耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科 講師
  • 耳鼻科専門医 医学博士